数で勝負? クラリネット

オケ編曲を演奏する場合、ヴァイオリンなど弦楽器のパートはクラリネットなどに割り振られることが多いため、吹奏楽界には「クラリネットの人数勝負」という悪しき風潮が存在しています。あまり吹奏楽ならではの響きを要求していないオケ編曲作品*1を演奏する場合、クラリネットの人数が少ないと、即座に貧弱な演奏に繋がってしまいます。そのためオケ編曲作品を中心に演奏するバンドは、クラリネット吹きをオケのヴァイオリンパートのごとく大量に必要とします。
一般的に世間で「コンクールで良い成績が取りやすい」と認識されている曲の多くは、クラリネットを大量に必要とするタイプの曲です。そのためクラリネット経験者が吹奏楽部に入部すると、一年生のうちから比較的容易にコンクールなどの行事に出してもらるなど、色々とおトクな点があります。
吹奏楽界では、オーボエファゴットといった『貴重なダブルリード吹き』も優遇されているのですが、あちらは基本的にソロ楽器、まずはそれなり程度に楽器が吹けないと話になりません。この辺りがボチボチ程度に楽器が吹ける人間でも優遇してもらえるクラリネットとは事情が異なります。
 
あまり上手でなくても使ってもらえるクラリネットですが、人数が多いからといって良い点ばかりではありません。クラリネットの人数が多すぎると、どうしても一人一人の音の埋没度が高まってしまいます。音の埋没度が高まると、どうしても「自分がこの楽譜をしっかりと吹かなくても、パートの誰かが吹いてくれるから、ちゃんと吹かなくても大丈夫」といった悪い意味での「連帯責任」感が芽生えてしまいがちです。また、常に誰かが自分と同じ楽譜を隣で吹いているため、「いま自分がここの音を吹いているんだ!」という実感が湧きにくく、吹いていてだんだんと面白くなくなってきます。このような理由から、クラ吹き達の音楽に対するモチベーションは激しく低下しがちです。
またクラリネットの人数が多いと、音量や音色などを常に隣と合わせないといけないため、隣の様子を窺っているような演奏になってしまいます。隣と合わせる事はとっても大切な事なのですが、隣と合わせる事ばかりに気を取られていると、演奏の方向性がどんどん内向きになり、「隣の音を聞いてから、隣と同じような吹き方をして音を出そう」という、積極性に欠けた消極的な演奏になってしまいがちです。
こんな調子じゃ、吹いていて全く面白くありませんし、決して良い演奏なんてできません。大人数の集団であるクラリネットパートのモチベーションを落とさずに積極的な演奏をさせるため、いかに隣人に頼らずに積極的に吹かせるか、いかに吹いているんだという実感を湧かせるのか、常に現在の状況を考慮しながら対策を打っていく必要があります。
 
本当はアンサンブルの練習などをさせて「1パート1人」という、否が応でも各個人に責任感を感じさせる状況を体験させるのが良いのでしょうが、残念ながら社会人バンドでは時間等の都合で難しいところです。そこで、たとえばクラリネットの人数がそれほど必要ではない曲に降り番制度を設けて少人数で吹かせるなど、各奏者に責任感を感じさせる状況を作ることによって、より一層の技術向上を図らせたり、同時に「吹いているんだ」という実感を湧かせて積極性を育てたりするなど、現状の枠組みの中で今すぐ対応できるところから始めてみるのが良いのかもしれませんね。

*1:要するにオケっぽい響きをイメージして編曲したオケ編曲作品